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【連載 第3回】名医の診察室 がん研有明病院 大野真司 医師
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日本の乳がん医療を代表するお一人である、大野真司先生。前半(第1回・第2回)は患者さんの「今」に向き合うセカンドオピニオン外来のお話を中心にお届けしましたが、後半は患者さんの「未来」を見つめた取り組みにせまります。

前回(第1回)のお話はコチラ>>

前回(第2回)のお話はコチラ>>

大野先生

がん患者さんの「子どもが欲しい」への答えを見つけたい。

九大病院にいたときに、ある女性の患者さんから「赤ちゃんが欲しい」と言われました。
「姑さんから子どもが出来ないと責められる」と外来で泣くんです。当時はがんになったら妊娠・出産は諦めることが多く、まして治療を中断して子どもをつくるなんて考えられませんでした。

でも、実際がん患者さんで子どもが欲しいと願う人は世界中にたくさんいます。子どもを望む患者さんに、いつまでも「これが常識だから」とか「がんになった身体で危険だから」で済ませないで、ちゃんとデータをとって説明しなければと思いました。

母体の再発率に影響があるのか、流産する確立は上がるのか、奇形児の可能性は……。
こういうデータがあるけど、どうしましょうか、と提案できるようにしなければと。そのデータも100%の答えではないけれど判断材料にはできる。
少なくとも流産や奇形児の確率に影響はないと分かれば、それはとても大切な情報になります。そういう情報、データを作るのが臨床試験です。

赤ちゃんの手を握る母

普段の診察や、患者さんと向き合うなかで生じる疑問をクリニカル・クエスチョン(臨床のなかで生じる問い)と言います。
現場から生まれてくるその疑問に「今」対応しないと、10年後も同じ疑問が続くので、10年後には答えがあるようにする。未来の医療をつくる、というのが臨床試験の目的です。
今日の患者さんにはメリットもデメリットもないかもしれないけど、未来の患者さんには確実にメリットがある。
臨床試験がないと、いつまで経っても医療は進歩しません。10年後も20年後も同じ疑問を抱えた同じ医療になってしまいます。

1980年代、乳がんになったら乳房切除が当たり前だった時代に、乳房温存の臨床試験が世界中で行われました。

その結果、温存しても再発に差はないとわかった。だから今は安心して乳房を残すことができます。そうやって階段を上っていくように医療はできているんです。

僕らは今、患者さんが治療を中断して妊娠したらどうなるか、という臨床試験をしているけれど、僕らが現役の間に答えはでないでしょう。
10年後の再発率まで経過を見ないといけないとなると、研究結果が出るまでに最低10年はかかります。同じように今の医療は引退した先輩医師たちがやっていた臨床試験のおかげなんですよ。

がんの研究はバトンを渡していかないといけない。僕らが先輩医師からバトンを渡してもらったように、次の医師たちに繋いでいかないといけないんです。

日本で使える がんの治療薬

10万人あたりの死亡者数

もう一つ、僕らの研究を紹介します。
図を見ると日本の死亡率が上がって見えますが、それは乳がんの罹患者数が増えているから。もちろん欧米諸国の医学の発展は目覚ましいですが、日本が遅れているわけでもありません。
治療に使えるお薬が多い…つまり患者さんに使えるお薬かどうか、研究が進んでいるのも、海外の医療が発展しているように見える要因です。

今、僕たちが治療に使えるお薬は30種類以上あります。だいたい5年ごとに増えていっています。海外のデータにもあるように、使えるお薬が増えるほど生存率は上がります。

海外から入ってくる薬のなかには月に何十万円、高いものは100万円を超えるものもあります。
医療費が高額になれば、高額療養費制度で個人の負担は8万円くらいですが、超えた部分は国の負担になります。1年間で1千万かかるとすると、そのお金はお薬をつくった海外の製薬会社に入ります。

日本と米国の研究費

お薬も輸入して使ってばかりいないで、日本でお薬をつくって、日本の経済を回すほうが理想的だと僕は思います。
しかし新薬をつくるとなると研究費が必要ですから、研究費と生存率をグラフで見てしまうと、差がでてきますよね。

>>第4回に続きます。

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